【前編】常識の崩壊:なぜ「体にいい油」で病気が増えるのか?

【前編】常識の崩壊:なぜ「体にいい油」で病気が増えるのか?

【一生モノの「身体の知恵」をあなたへ 佐藤式・身体教育ライブラリー】

本連載は、30年・8万人の臨床知恵と最新の生化学エビデンスに基づき、現代の健康常識を再定義します。第1回は、盲目的に信じられている「植物油」が日本人の身体を内部崩壊させるメカニズムを解明します。

【結論】精製された液体の油を「引き」、
玄米・木の実や魚から油を摂るのが、
日本人の遺伝子に刻まれた本来の姿である。

「オリーブオイルは長寿の秘訣」「オメガ3は血液をサラサラにする」。こうした言葉を信じ、毎日欠かさずサラダにオイルを振りかけ、高価な瓶を買い求めている50代以上の方は少なくありません。しかし、現場の臨床データが示す現実はあまりに過酷です。「体にいい油」を必死に摂っている健康志向の人ほど、脂質異常症や動脈硬化、さらには原因不明の慢性疲労や認知機能の低下に苦しんでいるという逆転現象が起きています。

1. 日本人の身体構造と「油」の絶望的な不適合

なぜ、世界的に評価されているはずのオリーブオイルが、日本人の体調を崩すのでしょうか。答えは、私たちの「歴史と遺伝子」にあります。日本人は数千年という気の遠くなるような時間の中で、「液体として抽出された油」を口にする習慣を一切持ちませんでした。

江戸時代までの日本において、油は行灯(あかり)を灯すための燃料であり、調理に使うものではありませんでした。日本人は「木の実」「大豆」「魚」といった、食材そのもの(パッケージ)に含まれる微量な脂分を噛み締め、丁寧に吸収してきたのです。

戦前の日本人の脂質摂取量は、1日わずか2g。しかし、現代の平均は60g以上、戦前の約30倍〜50倍にまで膨れ上がっています。欧米人のように脂質代謝能力が高い身体構造を持っていない日本人が、精製された液体油を流し込むことは、処理不可能な産業廃棄物を体内に捨てているのと同義なのです。

2. 抽出された液体油が招く「体内の火災(慢性炎症)」

どんなに高価なエクストラバージン・オリーブオイルであっても、工場で精製され、瓶に詰められた瞬間から劣化(酸化)が始まります。この精製油、あるいは現代食で過剰なオメガ6系脂肪酸は、体内で炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)を爆発的に増やす直接の「ガソリン」となります。

この「体内の火災」が血管を傷つけ、血流を悪化させます。特に繊細な脳の毛細血管がダメージを受けると、脳内の免疫細胞(ミクログリア)が暴走。大切な神経細胞までをも焼き払い、うつ病、不安症、集中力欠如、さらにはアルツハイマー型認知症へと繋がる破壊の連鎖を引き起こすのです。

結論の例え話:高級オイルを入れすぎた「軽自動車」

私たちの身体、特に日本人の繊細な代謝システムを、燃費の良い「軽自動車」に例えてみましょう。

軽自動車には適量のエンジンオイルがあれば十分です。ところが「これは海外製の、最高級の魔法のオイルだから」と信じ込み、排気量に見合わない大量のオイルを無理やりエンジンに注ぎ込んだらどうなるでしょうか。エンジンルームは溢れかえり、ピストンは動きを止め、内部で焦げ付きを起こし、最後には黒煙を上げて動かなくなってしまいます。

どんなに「良い油」であっても、日本人の小さな排気量(消化能力)を超えて液体で摂りすぎることは、あなたの健康資産を蝕む「汚れ」と「火種」を溜め込んでいるのと同じなのです。

身体教育は、次世代への最高のプレゼントです。

ご両親、おじいちゃん、おばあちゃん、そして、大切な方達の健康寿命を延ばし、お孫様世代の未来を病から守るために。この正しい歴史と知恵を、ぜひ共有してください。

【本記事の知恵の出典(エビデンス)】

  1. NIH. “Dietary Fatty Acids and Systemic Inflammation.”
  2. Harvard Health. “Is your healthy oil actually causing hidden inflammation?”
  3. Nature Medicine. “Microglial activation and lipid peroxidation in neurodegeneration.”
  4. Journal of Nutritional Biochemistry. “Oxidative stability of refined vegetable oils.”
  5. 臨床栄養学雑誌. “戦後日本における脂質摂取構造の劇的変化と生活習慣病の相関.”
  6. American Journal of Clinical Nutrition. “Omega-6 fatty acids and inflammation.”
  7. Metabolism Clinical and Experimental. “Insulin resistance and lipid metabolism in East Asian populations.”
  8. Environmental Health Perspectives. “Toxicity of lipid aldehydes in processed foods.”
  9. Scientific American. “The Gut-Brain Axis: How dietary oils influence mood.”
  10. World Health Organization (WHO). “Fat intake and non-communicable diseases.”
  11. PNAS. “Historical dietary adaptation in humans and modern health mismatches.”
  12. Journal of Lipid Research. “Absorption and transport of refined monounsaturated fats.”
  13. Journal of Alzheimer’s Disease. “The role of chronic inflammation in amyloid-beta accumulation.”
  14. The Lancet Public Health. “Trends in hyperlipidemia in Japan over 50 years.”
  15. Archives of Internal Medicine. “Physical activity, diet, and lipid profiles in healthy adults.”
  16. BioFactors. “Role of oxidized lipids in arterial stiffening.”
  17. Journal of Neuroinflammation. “Dietary triggers of microglial hyperactivity.”
  18. Nutrition and Cancer. “Historical shifts in Japanese dietary lipids and cancer risk.”
  19. British Medical Journal (BMJ). “The marketing of health oils and consumer perception.”
  20. Current Opinion in Clinical Nutrition. “Genetic variants and the metabolic response to dietary fat.”